介護で限界。でも辞めたあとが怖い。
そんな迷いの中にいませんか。看護師34年、今は親を介護している私が、現場で見てきた「介護離職して後悔した人」には共通点があります。
離職そのものは、悪い選択じゃないんです。後悔していたのは、退職後の暮らしを思い描けないまま、辞めることがゴールになってしまった人でした。
辞めた直後はホッとしても、数ヶ月後には「お金の不安」「人とのつながりを失った孤独」「自分の存在価値が見えなくなる感覚」が押し寄せます。これを避けるには、辞める前に整理しておくべき3つの軸があります。
この記事では、現場で見てきた後悔の典型パターン、介護保険と自費プロの使い分け、辞める前に整理する3つの軸までお伝えします。読み終わるころには、あなたが今すべき選択が見えてくるはずです。
介護離職を考える人が「一番苦しんでいる」こと

仕事を精一杯して、疲れた体で家に帰る。それなのに、家に帰ったらまた介護。
これが、介護と仕事を両立している方の毎日です。
私自身、母を介護している今、そして看護師として34年現場で介護家族の方を見てきた経験から言えるのは、ひとつ。
介護は、終わりなき戦いです。
お互い若くもないし、1年1年さらに年を取っていく。だから体が疲れてくる。体が疲れてくると、心の余裕もなくなる。心の余裕がなくなると、介護者に当たってしまう。介護者に当たる自分にジレンマを感じて、そんな自分が嫌になる。
その繰り返しです。
感情の面と体の面、その二重苦が一番しんどいんです。
こんな状態が続いていませんか
介護してる相手にイライラしてしまう。自分の時間が1分もない気がする。「もう無理」が口グセになっている。笑い方を忘れた気がする。このまま自分が壊れる予感がする。
3つ以上当てはまったら、限界が近いサインです。
看護師34年で見てきた「介護家族のリアル」

介護家族の方が、本音をふと漏らす瞬間が病室にはあります。
看護師34年、私が忘れられない言葉があります。あるお嫁さんが、ご家族の入院初日にこう言いました。
「あ、これで安心できました。少しの間、楽ができます」
入院は普通、家族にとって心配な出来事です。でも、介護でずっと家族の世話をしてきた方にとっては、入院が唯一の休息になっている。
そのお嫁さんは続けました。
「よろしくお願いします。少しの間、ゆっくりと時間を過ごすことができます。今日は夜、眠れそうです」
「今日は夜眠れそう」という一言が、私の胸に残りました。普段は眠れていない、ということなんです。
私もこの言葉を聞いた時、何も言えなくなりました。
退院の話が出た時、そのお嫁さんは「もう退院ですか」と言いました。どう聞いても、喜びには聞こえない一言でした。
これは、決して特別な家族の話じゃないんです。私が現場で出会った、たくさんの介護家族の方が、口にできずに抱えている本音です。
あなたも、家族の入院に「ホッとした」瞬間、覚えがあるかもしれません。その感情に、罪悪感を持たなくて大丈夫です。
介護離職は「あなたを守る選択」、その理由

もう辞めたい。その気持ちは、間違っていません。
介護をしていて、自分の体と心に限界が来ているなら、その一番の抜け道として離職するのは、悪い選択じゃないんです。
最前線で働いて、身も心もボロボロ。何のために自分が生きているのか、価値が見出せなくなる。
そこまで追い詰められているなら、離職は正しい選択です。
ただし、ひとつだけ条件があります。
辞めた後の準備をしてから、判断してください。
辞めるのは、決断さえすれば誰でもできます。でも、辞めた後の生活を支える「お金」と「人とのつながり」は、準備しないと手に入りません。
私が「離職を全否定しない」のは、限界を超えてまで仕事を続けることのほうが危険だと知っているからです。でも同時に、準備なしの離職が後悔を生むことも、たくさん見てきました。
「介護離職して後悔する人」の3つの典型パターン

介護離職して苦しむ方には、共通点があります。私が現場で見てきた中で、やめなきゃよかったとなりやすいパターンを3つに整理しました。
パターン1:お金の準備なしで離職
辞めた直後は、時間ができてホッとします。やっと自分のペースで介護できる、と。
でも数ヶ月すると、収入のない不安が襲ってきます。介護したい、優しく関わりたいと思っていたのに、お金のことでイライラし始めて、安易に辞めたことを後悔し始めます。
再就職のハードルも、ブランクが長くなるほど高くなります。
パターン2:人とのつながりを失って孤独
介護だけの生活になると、外との接点がどんどん減っていきます。同僚との会話も、職場の出来事を話す機会もなくなる。
孤独になると、「誰のせいでこうなった」と、介護される家族に八つ当たりしてしまうこともあります。自分でも気づかないうちに、心がすり減っていきます。
パターン3:介護だけになって、自分の存在価値を見失う
仕事は、お金のためだけにやっているわけじゃないんです。長年積み上げてきた誇りや、仕事をしている自分へのモチベーション。これらは、収入と同じくらい、自分を支えてきたものです。
介護だけの生活になると、その「自分の存在価値」を感じる場面が、ぐっと減っていきます。介護そのものは大切ですが、それだけになると、自分の人生がつまらなく感じる方もいます。
離職したのに苦しむ方の多くは、辞めた後の暮らしの準備が足りていません。
介護のプロをどう使うか|介護保険+自費の正しい順序

「介護のプロを使う」と聞くと、自費サービスを思い浮かべる方が多いです。でも、いきなり自費じゃないんです。順序を間違えると、お金も体力も無駄に削られます。
正しい順序は、まず介護保険でできることを使い倒す→そこで足りない時間帯だけ自費で補う、です。
まず介護保険サービスを使い倒す
介護保険は、要介護認定を受けると1割負担(所得により2〜3割)で受けられる公的なサービスです。代表的なものはこちらです。
・デイサービス:日中、施設で食事・入浴・レクリエーション。介護家族の日中時間を確保できます。
・訪問介護(ヘルパー):自宅にヘルパーが来て、入浴介助・食事準備・排泄介助。
・ショートステイ:数日〜1週間、施設に泊まり。介護家族の休息や急な用事に。
・福祉用具レンタル:介護ベッド・車椅子・手すりなどを安く借りる。
使い始めの順序は、地域包括支援センター(市区町村に必ずある無料窓口)→ケアマネジャー→要介護認定→ケアプラン作成、です。地域包括支援センターは「介護のことで困ったらまずここ」という場所。電話一本で相談に乗ってくれます。
看護師時代、私はこう乗り切りました
私が母の介護で使ったのは、デイサービスと、徘徊(私を探して家を出てしまう)が出始めた時期の見守り探知の契約だけ。自費の訪問介護は使ってきませんでした。
最後の数年は日勤のみのシフトに変えていたので、母をデイサービスに送ってから出勤、夜はダッシュで帰宅、という毎日でした。徘徊がひどくなった時期は、介護休業と有給を組み合わせて調整しました。
それでも乗り切れたのは、夜勤がなくなったから、というのが正直なところです。夜勤を続けながら親の介護を一人で抱えるのは、私には無理だったと思います。
夜勤がなくなったから、何とかなりました。
「自分はただじゃない」
私自身、お金を使うことへの抵抗がありました。「タダで自分でできることに、なぜお金を払うんだろう」という感覚です。家事代行を使う人を見ても、「私はやらない」と思っていました。
でも、ひとつだけ忘れがちなことがあります。
自分はただじゃない。
仕事と介護を一人で両立しようとすると、手がかかればかかるほど体が消耗していきます。家族の協力が得られない方が一人でなんとかしようとすると、気づいた時には自分が倒れている。
看護師として、私はたくさんの「燃え尽きた介護家族」を見てきました。そのほとんどが、「家族だけで頑張ろう」とした方でした。プロに頼ることは、家族としての責任を放棄する行為じゃないんです。自分を守るために使うものです。
介護保険でも足りない時間帯がある
介護保険サービスで全部はカバーできません。早朝・夜間・急に必要になった時・短時間だけお願いしたい時など、保険の枠組みでは対応しづらい場面があります。
たとえば「明日の朝6時から2時間だけ」「週末の急な対応」など、保険サービスではすぐには動きにくいケース。ここで自費の訪問介護を組み合わせると、隙間が埋まります。
「お金がもったいないからプロを使わない」じゃなく、「お金を残すために、保険で足りない部分だけプロを使う」という考え方が、仕事を続けながら介護する方には現実的です。
自費の選択肢としてのクラウドケア(関東・関西)
自費の訪問介護で、私が知っている中で特に50代の介護家族におすすめできるのが、クラウドケアです。時間単位で頼めて、週1回・1時間からOK。継続契約じゃないので必要な時だけ使えます。
※対応エリアは関東・関西です。エリア外の方は、お住まいの地域の訪問介護事業所をケアマネジャーに相談してみてください。
辞める前に整理しておく3つの軸

辞める前に整理しておきたい3つの軸があります。
軸1:お金の準備
最低限、生活費の3年分を試算しておきましょう。月々の生活費に36ヶ月をかけて、必要な貯金額を出します。介護費用は在宅介護で月平均5.3万円・介護期間平均4年7ヶ月という調査もあります(生命保険文化センター2024年度調査)。自分の医療費も忘れないでください。
退職金・失業保険・介護休業給付金で当面はしのげても、3年後の自分が困らないか確認してください。
軸2:人とのつながりを完全に切らない
介護に専念するために仕事を辞める方が多いですが、仕事を完全にゼロにするのは推奨しません。週1〜2日のパート、在宅ワーク、ボランティア、看護師資格を活かした単発バイト。何でもいいんです。
「自分が社会の一員」という感覚は、想像以上に大切です。お金のためだけでなく、心の健康のために残しておきましょう。
軸3:介護を一人で抱えない
これが一番の盲点です。
「家族の介護は家族がやるもの」という思い込みが、自分を追い詰めます。介護のプロを使うことは、家族としての愛情を捨てる行為じゃないんです。
むしろ、プロを使うからこそ、家族として接する時間に余裕が生まれます。
私の周りの介護家族・3つの選択

仕事と介護をどう両立するか。私の看護師仲間の中で、それぞれの答えを見つけた方たちがいます。
夜勤のないクリニックへ転職
総合病院から夜勤のないクリニックへ移った同僚は、「時間に余裕ができて、夜勤もなくなった分、しんどさが半分くらいになった」と言っていました。
「この選択は間違ってなかった」というのが、本人の言葉です。
完全に仕事を辞めるのではなく、働き方を変える、という選択肢があります。
介護休暇を取って、施設入所→現役復帰
親を施設に入れて、ご本人は仕事に戻った方もいます。
この選択をされた方の共通点は、「自分の時間を束縛されたくない」「家庭があるから両立は無理」「ずっと続く介護の苦痛から自由になりたい」という、本音を正直に認めた方たちでした。
施設に入ってもらう選択は、けっして冷たいことじゃないんです。自分の人生を生きる、という決断です。
完全に離職して介護に専念
もちろん、完全に離職する方もいらっしゃいます。
ただ、これまでお伝えしてきた通り、辞めた後の準備(お金・人とのつながり・暮らしのイメージ)が整っているかどうかで、その後が大きく変わります。
「介護離職」と一言で言っても、選択肢はいくつかあります。自分はどれが一番合っているか。それを見つけるのが、苦しまないための一番の近道です。
それでも離職するなら|後悔しない準備リスト

「いや、もう離職以外の選択肢はない」という方のために、後悔しない準備リストをまとめます。
使える制度を全部確認する
失業保険は、介護理由の退職でも原則は自己都合扱いです。常時看護が必要な家族を抱えている等、条件によっては給付制限なしで受給できる場合があるので、ご自身が該当するかは必ずハローワークで確認してください。介護休業給付金は、休業開始時賃金日額の67%が、対象家族1人につき通算93日(3回まで分割可)支給されます(厚生労働省・介護休業給付Q&A)。退職金は勤続年数によって金額が大きく異なるので、必ず人事に確認してください。
※制度・支給額は2026年5月時点。最新情報は厚生労働省公式でご確認ください。
離職中も「職歴を切らない」工夫を
介護離職して再就職するときに、面接で「介護で離職」と言うと、マイナス評価になることが多いのが現実です。「また介護が重なったら辞めるかも」と採用側は警戒します。
これを避けるには、離職中も短時間のパートや在宅ワークで職歴を切らないこと。看護師資格を活かした単発バイトを続けるのも有効です。「介護の合間に〇〇していました」と言える状態にしておく。これだけで再就職のハードルが大きく下がります。
心の準備:辞めた直後の安堵感→お金不安への移行を予測する
辞めた直後は、解放感で心が軽くなります。「やっと自分の時間ができた」と。
でも、3〜6ヶ月後にはお金の不安がやってきます。これを事前に「来るぞ」と知っておくだけで、対処できます。
離職前にこの5つを試してから判断してください
介護休業(最大93日・3回分割可)を会社に申請する。訪問介護のプロを週1回でも入れてみる。ケアマネジャーに「自分の限界」を正直に話す。兄弟・親族と介護分担の話し合いをする。「離職した3ヶ月後の自分」を具体的に書き出す。
これを試しても限界なら、離職を決断してください。
判断に迷う方は、訪問介護のプロに一度相談してみてください。それだけで、視界が変わることがあります。
よくある質問
Q1:介護離職した人はどれくらい後悔していますか?
メディアの報道では、介護離職した方の8割以上が後悔しているという指摘もあります(現代ビジネス「8割以上の人が後悔…介護離職を絶対にしてはいけない3つの理由」)。私が現場で見てきた印象でも、準備なしで離職した方の多くが、3〜6ヶ月後にお金の不安に直面しています。
Q2:介護休業と離職、どちらを選ぶべき?
まずは介護休業(最大93日)を試してください。93日あれば、訪問介護プロを入れる体制を整えたり、ケアマネジャーと相談する時間が取れます。
「離職するか」の判断は、介護休業を取って状況を整理してからでも十分です。
Q3:訪問介護のプロはどれくらい費用がかかりますか?
サービスや時間によって異なりますが、自費の訪問介護なら1時間あたり3,000〜5,000円が目安です。週1回・2時間でも、月2〜4万円程度。仕事を続けて月収20〜30万円を維持できるなら、十分採算が取れます。
Q4:介護で疲れているとき、相談できる窓口は?
地域包括支援センターは、全国の市区町村に設置されている無料相談窓口です。すでに介護認定を受けている方は担当ケアマネジャーに。認知症の方の家族は「認知症の人と家族の会」の電話相談(0120-294-456)も使えます。
「自分が倒れそう」と感じる前に、必ず相談してください。
Q5:50代で介護離職した後、再就職できますか?
可能です。ただし、ブランク期間が長くなるほど不利になるのが現実です。だからこそ、完全に仕事を切らずに、週1のパートや単発バイトで職歴を残しておくことを強く推奨します。
最後に|辞める前に、これだけは整理してください

私は、介護離職を否定しているわけじゃないんです。限界が来ているなら、離職は正しい選択です。
でも、「辞めれば楽になる」という幻想だけで決めてしまうと、辞めた後にもっと苦しくなる可能性があります。
辞める前に、たった1つだけお願いしたいことがあります。
お金と、人とのつながりの準備をしてください。この2つが整っていれば、離職後の生活が大きく変わります。
そして、離職を踏みとどまる選択肢として、訪問介護のプロを使うことも、ぜひ視野に入れてください。家族だけで抱え込まなくていいんです。
最後に、これだけは伝えたいです。
あなたが倒れたら、介護も終わってしまいます。
あなた自身を守ることが、結果的に、介護される家族を守ることにつながります。
参考資料
本記事の作成にあたり、以下を参考にしました。
・生命保険文化センター 生活保障に関する調査(2024年度)
・厚生労働省 介護休業給付Q&A
・現代ビジネス「8割以上の人が後悔…介護離職を絶対にしてはいけない3つの理由」

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